お金の話というと、欧米の知恵が紹介されることが多いのですが、実は日本にもお金とキラキラ美しくつきあうすばらしい知恵があることをいくつかご紹介したいと思います。
皆さんは近江商人をご存知ですか。琵琶湖のほとりの近江を本拠地にして、全国で商売をした人たちです。東京の日本橋に行くと海苔の「山本山」や「西川ふとん店」など、近江商人がルーツの企業がいろいろあります。
近江商人は最近、「三方よし」という標語で知られています。商売をして、まず近江商人の品を買った人がいい買い物ができたので「買い手よし」、近江商人はいい商いができたので「売り手よし」。さて最後は、何かというと「世間よし」。近江商人はその土地で商売ができたお礼に、収益の一部で橋をかけたり常夜灯をつけたりして、地元に利益を還元したのでした。これは今風にいうとCSR(コーポレート・ソーシャル・レスポンシビリティ=企業の社会的責任)を果たしたということになります。つまり日本のすぐれた商人は、明治時代より前にCSRを実践していたのです。
近江商人のこの考え方を示すいくつかの言葉があります。
権力と結託したり、買占めや売り惜しみをしたりせず、物資の需給をスムーズにして世のなかに貢献するという、商人の本来の勤めを果たした結果として真の利益を手にすることができる。
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取引は自分の都合・勝手を優先させず、思惑をせず、自他ともに成り立つことを考え、売買価格の決定もそのときの天性成行に従うこと。だから損もあれば益することもあり、損益は長期的平均でみることが大事だ。
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「しまつ」は単なる節約ではなく、モノを最大限に生かして使い切ることであり、「きばる」は勤勉に働いて収入を増やすことで「おきばりやす」と挨拶にも使われている。
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商品の販売は、顧客の望むときに、そのときの相場で損得に迷わず売り渡し、先々の値上がりを思惑して売り惜しんではならない。売った方が、安売りしすぎたかなと悔やむような取引であれば、買い方の商人にも利益のでることは間違いないのであり、売り方も買い方も双方満足する。これが将来を考えた長続きする取引を可能にする。
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どれもすばらしい教えで含蓄がありますね。
さて明治になると、近江商人以外にも素晴らしい実業家が何人も登場します。その代表が渋沢栄一です。渋沢は明治時代に、王子製紙や東京海上火災、東京証券取引所や帝国ホテルなど300以上の会社などを作りました。彼はあるところで、次のように述べています。
「実業家の品格を高め知識を進め、力を大にしなければ国家を富強にすることはできぬ。政府のお墨付きを頂戴して有難がる時代ではとうていいかぬと余は深く感じた。それゆえ是非この地位を進め品格を上げるということを実現させたいものであると、あたかも神仏に誓うと同様の覚悟をもって、不肖ながら一身を犠牲に供してかかったしだいであった。」
士農工商の江戸時代には、武士には品格があり、商人には品格などない、あるいは商人は最も品格が低い、と見られていました。近代日本は「殖産興業」が国家の一大課題であり、それを担う商工業つまり経済に関わる実業家は、私的利益に走ることなく国家国民のために働かなければならない、そのためにはそうした大志を持ち品格を高めることが実業家にとって極めて重要である、と渋沢は考えました。
ある時、向島の料亭で三菱を作った岩崎弥太郎は渋沢に、手を組んで市場を独占しようともちかけます。渋沢は「事業の目的は民衆の幸福であり、自分は健全な競争と合本主義でいく」といい市場を自分のものにしようとする岩崎を批判しました。渋沢は財閥を作らずパブリックの精神で公正な市場を育てようとしたのです。
そして「実業家が品格を高めるためには高等教育が必要である」という認識の下、実業家に高等教育はいらないという当時の常識を覆して、商法講習所(一橋大学)を作り、大倉喜八郎が大倉商業学校(東京経済大学)を作る時に協力し、早稲田大学、二松学舎大学、国士舘大学、同志社大学の、寄付金取纏めに関わったりしています。
さらに渋沢は、実業界の中でも最も社会活動に熱心で、東京市からの要請で養育院の院長を務めたほか、東京慈恵会、癩予防協会の設立などに携わり、キリスト教徒ではないのに救世軍を支援したほか、関東大震災復興のための寄付金集めなどに奔走しました。
また日本移民排斥運動などで日米関係が悪化した際には、日本国際児童親善会を設立し、日本人形とアメリカの人形を交換するなどして、交流を深めることに尽力しました。1931年には中国で起こった水害のために、中華民国水災同情会会長を務め義援金を募るなどし、1926年と1927年にはノーベル平和賞の候補にもなりました。
「お金や経済に関わる者は、学問し品格を高め、お金と経済を、生活者のために回し、寄付もしていかなければならない。」渋沢の教えは、こうまとめる事ができるでしょう。
私たちが投資するときに、近江商人や渋沢栄一のような志の高い経営者がおり、「三方よし」を積極的に推進するような企業を選ぶこと、また私たちが「お金は天下の回りもの」と考えて、自分の幸福だけでなく、人々や社会や地域や地球のためにも投資すること、そしてこうした知恵と伝統が日本にあることを自覚することが大切ではないでしょうか。