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伊藤宏一の“おカネと「美しく」つきあう方法”
<第12回:人を育てる融資と「農耕型」投資 ―グラミン銀行とユヌス博士―>
講師:伊藤宏一(千葉商科大学大学院教授)
2006年にノーベル平和賞を受賞したユヌス博士がリーダーシップをとるバングラデシュのグラミン銀行。ここにはお金と美しくつきあうための投資と融資の新鮮なコンセプトがあります。
2007年6月、ユヌス博士は、グラミン銀行と従来の銀行の違いについて、次のような感動的な文章を書いています。
グラミン銀行の方法論は、従来の銀行のそれの対極にある。従来の銀行は「多く所有している者は多くを得ることができる」という原理のもとにある。言い換えれば、「ほとんど何も持たないか全くない場合は、何も得られない」ということだ。その結果、世界の人口の半分は銀行サービスから除外されている。従来の銀行は貸付金が将来回収不能になる可能性の引当てとして「担保」を土台にしているが、グラミン銀行は「非担保的」システムである。
グラミン銀行は、信用は人権として享受されるべきであるという信念を出発点とする。そして何も所有していない人が最も高い優先順位で借入ができるというシステムを作る。グラミン銀行の方法論は、人の物的所有の評価を土台にせず、人の潜在的可能性を土台とする。グラミン銀行は、最も貧しい人も含めて、すべての人が無限の潜在的可能性に恵まれていると信じる。
従来の銀行は、一般に男性のお金持ちのものだが、グラミン銀行は、貧しい女性のものだ。
従来の銀行の目的は利益の最大化であるが、グラミン銀行の目的は貧しい人々、とりわけ女性と最も貧困な人々に金融サービスを提供して、窮乏との闘いを支援し、収益を作れる状態にし、経済的健康をもたらすことである。グラミン銀行は貧しい女性に資産の所有権を与えることによって、彼女たちの生活状態をよくするために仕事をする。
グラミン銀行は、貧しい人々を人間版の「盆栽」とみている。大きな木の健康な種が花瓶のような小さい器に撒かれれば、育つだろう木は、大きな木のミニチュア版になる。それは種に欠陥があるからではなく、種が生長するための現実の土台を否定されているからだ。人々が貧しいのは、彼らが成長するための現実の社会的・経済的土台が否定されているからだ。彼らには成長するための花瓶のような小さい器しか与えられていないのだ。グラミン銀行は、彼らを花瓶のような小さい器という土台から、社会という現実の土の土台に移す努力をしている。もし我々がそれに成功すれば、人間版の「盆栽」はなくなり、我々は窮乏から解放された世界を得ることになろう。
すばらしい文章体制だと思いませんか。さてグラミン銀行から私たちは何を学ぶことができるでしょうか。
第一に、グラミン銀行の融資は、「人を育てる融資」です。近代日本で近代の銀行や銀行家(バンカー)が産業を育てる融資をしましたが、それの個人版であり、銀行とは人や産業を育てるものだという本質があります。利益と資金回収に走るだけの銀行は、こうした銀行の本質から遠く離れてしまっているように思います。
第二に、グラミン銀行には「農耕型」投資のコンセプトがあります。グラミン銀行でお金を借りた、ある貧しい女性は、そのお金でにわとり3羽と子牛一頭を買いました。にわとりは翌日から卵を生みます。女性はそれを売って利益を得ます。卵が余れば、近所の人におすそわけをします。子牛は大事に育てて大きくしてから市場で売り利益を得ます。こうしてインカムゲインとキャピタルゲインを得ながら借りたお金も返し、彼女は豊かになっていくのです。これは一種の投資です。従来の投資のイメージは短期売買の投機で、それはゼロサムゲームの、勝つか負けるかの「狩猟型」投資です。しかしグラミン銀行が貧しい人々にすすめている家畜を飼って育てることは、「農耕型」投資です。稲や植物を育てるように、家畜を育てるように、お金も育てるというイメージです。私たち日本人も、こうした中長期の農耕型投資であれば、自然に投資に親しむようになるのではないでしょうか。
ユヌス博士が進めるこうした新しい銀行つまりオルタナティブバンクの動きは、様々な国に広がりをみせています。バングラデシュと同じアジアの一員である日本でも、こうした考え方が融資にも投資にも広まるといいのではないかと思います。
伊藤宏一(いとうこういち)
千葉商科大学大学院教授。税理士、CFP®認定者・日本FP協会常務理事、株式会社ポラーノ・コンサルティング代表、税理士、ファイナンシャル・プランナーとして、企業・労働組合などでライフプランセミナー・個人相談を実施するかたわら、講演、金融機関などのセミナー、雑誌・新聞などの執筆、テレビ・ラジオなどに出演。
主な著書・論文に『ライフプランニングー理論と実例』(2007年セールス手帖社)、『金融商品なんでも百科』(平成20年度版 監修 金融広報中央委員会)、『独立投資家宣言』(共著日経BP社)、『なる本FP』新訂版(2009年7月 週間住宅新聞社)、など。
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