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島田知保の“自分流で選ぶ‘あんしん運用’のために”
<第12回:大恐慌時代に学ぶ資産作りの王道>
講師:島田知保 (月刊「投資信託事情」発行人・編集長)
資産運用の本質はお金を育てるだけでなく、幸せを育てることにあるのではないでしょうか。
ちょっと極端なお話ですが、子供の頃の知り合いについて思い出すことがあります。大層お金持ちの姉妹で、広いお庭と洋風なしつらえの綺麗なお家に住み、いつもステキなお洋服を着て、ピアノも英会話も上手で、お母様は美人…。誰が見ても羨ましいほどのセレブな家庭です。
ところが、その家庭にもたったひとつ、問題がありました。それは、お父様とお母様が仲良しではなかったことです。姉妹は、しばしばグランドピアノの下にもぐりこんで、両親の間に吹き荒れる嵐が去るのを待たねばなりませんでした。時には、「もう、帰りません!」と大きなバッグを持って出て行くお母様の後を、裸足で「ママ、 行かないで!」と追いかけたこともあったそうです。
夢を絵に描いたような世界に住んでいても、幸せとは限らないなあと、おさな心に強く印象に残ったエピソードです。
そこでふと考えました。私たちはもしかしたら、お金そのものにばかり気をとられて、お金では買えない両手いっぱいの幸せに気がついていなかったり、その幸せをかみしめ、味わっていないのではないでしょうか。
ためしに、「日々の暮らしの中で幸せを感じること」を3つ挙げてみましょう。
(1)犬と過ごす休日。(2)なごやかで雰囲気のよい茶席に招かれること(高い茶道具である必要はありません)。(3)セミナーやお話、書いたことなどが「参考になった」とおっしゃっていただけた時。
う~ん、やっぱりお金で買えないことばかりですね。
「観る」と、「やる」には大きな差がある
ではお金を運用するのは何のためでしょうか。私の場合は常々お金は、自由になるための道具だと思っています。
お金に多少の余裕があれば、様々な判断や決断が必要なときに選択肢が増え、自由に考えられる余地が広がると考えたのです。身近な例ではあるモノを「買いたいけど買えない」ことと「買えるけど買わない」ことでは、同じモノを持たない状態でも気持ちが異なるからです。実際、お金に余裕がある方が、物欲は小さくなるような気もします。そして、お金をモノよりもっと意味のあることに活用したいと思う心のゆとりも生まれます。「衣食足りて礼節を知る」といったところでしょうか。お金のゆとりは、心のゆとりにもつながるようです。
そこで、考えているだけでは何もならないと、ハタと気が付くわけです。
日々マーケットを見て、あれこれ考えていらっしゃる方。最近で言えば、「底値になったら株や株式投信を買おう」と思っている方、多いですね。でも、それはジャンクフードを抱えてゴロゴロしながらマラソンや野球を観戦していて、気が付いたら脂肪だけが増えていたというのと同じではないか、と。スポーツ観戦ならそれ自体が心のゆとりやリフレッシュにつながりますが、資産運用はいくら考えていても、自分でやらなければ意味がありません。
スポーツや芸術は誰でもやってみるわけには行かないかもしれません。それでも、クラブ活動やちょっとした趣味で自分もしたことがあるものと、まったくやったことがないものでは、見方も楽しみ方も深みが違うものです。
資産運用も同じです。情報を収集して、知識を身につけることも大切ですが、自分のお金で投資をしてみると、新しい発見がたくさんあるのです。
ムリのない資金で少しでも投資をしてみると、基準価額の変動を実感することができます。下がれば悲しいし、上がれば嬉しい、そして長く続けていくほどに、その変動で一喜一憂せずに、長期の視線でマーケットとつきあうことができるようになります。
ニュースや世の中を見る眼も変わります。この新発明は、どんなことに役立つのだろう? 不祥事が発覚した企業はどのように対応するのだろう? 今まで地図のどこにあるかもよく知らなかった国々の情勢や事件なども、新興国に投資をしていると気になってきます。きっと、地球上で起こっていることで経済に無関係なことはほとんど無いと気がつくでしょう。
そのように世の中を見る眼が変わると、視野が広がり、考え方が深くなるという、資産運用だけではないプラスの効果もあります。
ドタバタ投資家は不幸を呼ぶことも…
ところが、同じ投資を通じて世界を見る眼でも、短期投資のドタバタ視線で見ると、景色がまったく異なります。最近市場についてのコメントや会話の中に、しばしば出てくるようになったフレーズで、このことを端的に表しているものがあります。
いわく、「ここまで(市場が)下がると、もう戦争にでもならないと戻らない」あるいは、「戦争でもあれば、すぐに戻る」、などの戦争が市場を救うかのような論調です。中には朝鮮戦争での特需景気から日本の高度経済成長に拍車がかかったという例を挙げて、「夢よ、もう一度」のような好景気待望論をとなえる人さえ居ます。朝鮮戦争がなかったとしても、日本は当時経済成長の大きな波に乗る時期にさしかかっており、ちゃんと先進国の仲間入りをしただろうと思うのですが。大恐慌と世界大戦の例も同じではないでしょうか。
もうお分かりだと思います。たとえどこかで戦争が起きて、そのことでモノやお金の需給バランスが変化し、市場で株価が上がったとしても、それは長い眼でみれば「短期的」な一過性の好況でしかありません。
人命や文化遺産の喪失など、お金に代えられない損失は言うまでもありません。経済面のみから見ても、人々の生命は生産活動や消費者としての大きな価値があり、街や施設の破壊は貴重な資源やエネルギーの浪費です。戦後復興が経済を活性化するという見方は、地球環境や資源エネルギーの有効活用から見ると、暴論でしょう。これはムダや破壊がお金を生むと考える超短期的な視点でこそ出てくる発想なのです。
長期の視線で投資をしていれば、たとえ自分の国とはあまり関係ないと思う地域での紛争や戦争でも、人の暮らしをコツコツと良くしていこうというプラスの発展にとっては、迷惑な出来事であることが想像できるはずです。「自分だけがよければいい」という思考では、持続可能な成長は実現できません。お金は、お金だけを追いかけると、不幸を呼ぶどころか不幸を待ち望むことになってしまう場合もあるようです。
私は、お金は'あんしん'と'幸せ'を育てるための道具のひとつと考えています。資産運用という孤独な自分との戦いを、'あんしん運用'の視線を持つ方々との共感を支えに、コツコツと続けていこうと思います。
島田知保(しまだちほ)
イボットソン・アソシエイツ・ジャパン株式会社 月刊「投資信託事情」発行人・編集長。東京生まれ。文部省宇宙科学研究所、衆議院議員公設秘書などを経て1995年より現職。創刊50年の投資信託専門誌「投資信託事情」は、愚直に経済・金融の社会的役割を追求する硬派な雑誌。投信関連調査、ソフト開発・開示資料・広報活動へのアドバイス、各種セミナー講師なども務める。 また、社会的責任投資(SRI)、責任投資原則(PRI)という考え方の普及に努めている。TBSテレビ「ブロードキャスター」コメンテーター、日経ラジオ「マーケット・トレンド」 ほか出演。岩波ブックレット「金融商品Q A」(共著)、教職員共済組合「共済だより」連載、ほか新聞、雑誌への執筆など。
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第01回 ドタバタ時計と"あんしん"時計
第02回 下落局面でパニクるか、ルンルンか?
第03回 注目のテーマ投資と地球環境
第04回 投スパ投資家は偉い!かも?
第05回 下落ショックを抑える資産運用のツボ
第06回 思い立ったら、リバランス計画を立てる
第07回 目標を見据えて、一人でも続ける
第08回 適応力と本質を兼ね備えた視線を持つ
第09回 自分の弱点を知って、判断の偏りを克服しよう
第10回 積み立て投資で「時間」を味方につける
第11回 大恐慌時代に学ぶ資産作りの王道
第12回 'あんしん'と'幸せ'を育てよう
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