
伊藤宏一の“パーソナルファイナンスの日本的方法”
<第11回:日本人は実は変動相場に慣れていた>
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講師:伊藤宏一(千葉商科大学大学院教授) |
外国為替の為替リスクというと、円高が進行して極めてハイリスクという印象をもちます。しかし国内で円を使うかぎりは、こうした相場変動に遭うことはありません。しかし昔からずっとそうだったでしょうか。
実は、江戸時代には、日本に流通した通貨は、金貨と銀貨と銅による銭貨があり、日々相場変動していたのです。
江戸幕府ができるまでの近世では中国の宗銭(そうせん)が流通していました。中国の影響は文化や制度のみならず貨幣にも及んでいたのです。今風に言うと、日本国内で元が紙幣として通用していたようなものです。
江戸幕府は、自前の貨幣を作りたいと考え、全国統一への一歩として貨幣制度の整備に着手し、慶長6年(1601年)に金座と銀座を設立し、慶長小判と慶長丁銀の鋳造を命じました。これが慶長の幣制の始まりです。
幕府は当初、金貨中心の貨幣制度を考えたのですが、経済力のある上方が専ら銀を使用していました。またこのころは国際的に銀が重要だったのです。この時期、メキシコや中央アンデスをはじめ世界的にも銀の発見が相次ぎ、国際的にシルバー・ラッシュと呼ばれる銀ブームに沸いていました。アジア貿易でも銀が中心的な貿易品となり、こうした中で日本銀は世界の主役の地位を占めるようになったのです。
十六・十七世紀の日本は実は「銀の島」として世界的に有名でした。フランシスコ・ザビエルは「カスティリャ人(スペイン)はこの島々をプラタレアス(銀)群島と呼んでいる」と記しています。十七世紀、世界の銀産出量年間60kgのうち3割から4割が最盛期の日本の輸出額であり、世界遺産の石見銀山は、ヨーロッパで「銀鉱山王国群」とも呼ばれていました。こうした事情があり、幕府は、やむを得ず金貨銀貨の併用を考えたのです。
そして、これに遅れること35年後の家光の時代、寛永13年(1636年)に幕府が一文銅銭、寛永通宝を本格的に鋳造することになりました。こうして金・銀・銭のいわゆる三貨制度が確立することになります。
ところで、これより前の慶長14年(1609年)に、幕府は三貨の御定相場(おさだめそうば)、つまり国の法定交換レートによる管理相場として「金一両=銀五十匁(もんめ)=銭四貫文」を定めました。そして後の元禄13年(1700年)に「金一両=銀六十匁=銭四貫文」と改訂しました。貢納金などに対してはこの換算率が用いられましたが、一般の商取引では市場経済に委ね、金一両、銀一匁および銭一文は互いに変動相場で取引されるのが実態だったのです。
こうして同一国内で金貨、銀貨、および銅貨がすべて無制限使用を認められました。金銀銅の三貨もいずれもが事実上の本位貨幣としての価値をもって流通し、それぞれが変動相場で取引されるというのは世界史上類を見ない貨幣制度でした。
さてこのように、国内に三種類の通貨が同時に流通すると、これらの取引を円滑に行うために、これらの通貨間の両替が必要となります。そこで1~2%程度の手数料を徴収して両替を行う両替商が成立することになります。
両替商は、やがて小判および丁銀の金銀両替および、為替、預金、貸付、手形発行により信用取引を仲介する業務を行う本両替と、専ら銭貨の売買を行う脇両替に分化していきました。本両替は江戸では本両替仲間、大坂では十人両替仲間を形成し、相場立会いなどについて協定しました。両替屋は大坂に本店を置くことが多く本両替が発達し、江戸は支店が多く脇両替が多く見られました。
さらに地方の都市にも開業されるようになり、大坂の両替屋を中心に互いに連絡を取り合い三貨制度の発達に貢献しました。本両替を利用したのは大名、有力商人など大口取引を行う者に限られ、町人などが一般に利用したのは脇両替すなわち銭屋でした。銭屋の数は次第に増加し、元禄期には組合を形成するまでに成長しました。また江戸では金銀両替および金融業務を行う本両替、専ら小判、丁銀、および銭貨の両替を行う三組両替、そして銭貨の売買を行う番組両替に分化し発展していきました。
こんな歴史をひも解いてみると、実は日本人は、為替変動に慣れることのできるDNAを本来持っているのではないかと思わざるをえません。江戸時代のこうしたセンスをバージョンアップして、外国為替にかかる為替変動リスクに対応していきたいものだと思います。
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伊藤宏一(いとうこういち) |
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千葉商科大学大学院教授。税理士、CFP®認定者・日本FP協会常務理事、株式会社ポラーノ・コンサルティング代表、税理士、ファイナンシャル・プランナーとして、企業・労働組合などでライフプランセミナー・個人相談を実施するかたわら、講演、金融機関などのセミナー、雑誌・新聞などの執筆、テレビ・ラジオなどに出演。 主な著書・論文に『ライフプランニングー理論と実例』(2007年セールス手帖社)、『金融商品なんでも百科』(平成20年度版 監修 金融広報中央委員会)、『独立投資家宣言』(共著日経BP社)、『なる本FP』新訂版(2009年7月 週間住宅新聞社)、など。 |
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