最も一般的なのは、「今はお金がないし、少しまとまったお金ができてから」「投資はお金がある人がすること」など、手持ちのお金では今はまだできない、とお考えになるケースです。100万円くらいないと投資はできない…という声が聞こえてきます。
けれどこれからお話するように、少額でも資産を作る投資方法があります。
また、「知識が無いから」「勉強したり、運用をフォローする時間がないから」というのも、もっともな理由です。全然勉強しないのは危険ですが、とりあえず少額でも始めてみないと、なかなか真剣に勉強できないというのも事実です。教則本を読んでもピアノを弾けるようにはなりませんし、一度も転ばずにスノボーが上達するわけでもありません。
「何に投資したらいいのか分からない」…これには、まずはシンプルな分かりやすい投資を経験しましょう、と申し上げましょう。
資産形成が目的ならば、短期の上げ下げを気にせず、大きな経済の波を見ながら投資できます。自分が本業で働いて収入を得ている間は、たとえ運用で損失が出る局面でも、長期で挽回するチャンスがあります。生活に支障のない範囲で投資するという原則さえ守っていれば、若い方ほど高いリスクをとって運用することが可能です。
お金が無いからこそ、毎月少額ずつ、預貯金を積み立てるのと同じ方法で投資をするという選択肢もあるのです。ちょっと生活の中で倹約をすれば、ほとんどの方に可能な方法です。
そして、多分皆さんが想像するよりずっと、威力のある方法でもあります。それが「積み立て投資」です。
長期で差がつく運用と貯蓄
「積み立て投資」は毎月、一定額を積み立てる形で投資する方法です。その威力とは、複利効果です。預貯金のように常にプラスになるわけではないので、下がったときは損失も“複損”…それまで積み上げてきた元本と収益すべてに損失が影響してしまいます。しかし、毎月投資タイミングを分けることで、最悪のタイミングで大きな金額を投資してしまう危険は避けられますし、下がった時にも淡々と投資を続けられるので、上昇に転じたとき、より早く損失を挽回する役割をその資金が果たしてくれます。
あくまでも単純化したシミュレーションですが(市場の上昇・下落などを考慮せず平均収益率で描いており、税金も考慮していません)、グラフを見ていただくと積み立て投資の効果がよくご理解いただけるのではないでしょうか。
就職した22歳の時から毎月1万円ずつ、年間12万円を積み立て投資して、年平均5%の運用成果であった場合(1)と、それに近い金額を60歳で作るために年利0.1%で毎月1万円、年間12万円積み立て貯蓄をした場合(2)を比べています。
60歳時点での差を見ると、運用は投資元本が456万円、運用した結果の資産額は約1,358万円です。一方、貯蓄は積み立て総額が1,140万円、資産額は利息込みで約1,162万円です。その差は、倍以上の元本を注ぎ込んだ貯蓄の方が約196万円少なくなっています
グラフを見ると、60歳に近くなるまで運用の方が下回っています(元本額がずっと少ないことを忘れないでください)。しかし、運用期間が長くなるほど、増え方が大きく(グラフの→の傾斜が大きく)なっているのが分かります。長期になるほど複利効果は目に見えて大きくなります。だからこそ、少しでも早く始めましょう!と申し上げているのです。
さらに劇的な効果が見られるのは、その後です。60歳で仕事をやめたと仮定して、積み立てをやめ、毎月8万円ずつ取り崩していったとします。60歳以降も(1)運用を続ける場合と、(2)預貯金に置いておく場合を仮定しています。貯蓄からの取り崩しでは急角度でお金は減っていき、72歳過ぎで資産がゼロになります。しかし、運用を続けていると減り方もなだらかで、貯蓄がゼロになる時点ではまだ882万円程度資産があり、84歳までお金が使える結果となりました。お金の寿命が12年も長くなったわけです。
「時間分散」はリスクを抑える
ただし、運用は貯蓄とちがって大きく資産が減ってしまう局面もあります。平均すれば年5%の収益率だとしても、ある年はマイナス25%などとなる可能性もあります。ですから、運用経験がまったく無かったら、退職金の寿命を延ばすためにいきなりまとまった資金を運用するのは、やはり危険です(退職金の運用の場合も、一度に投資せずに回数を分けることで投資タイミングを分散しましょう。また、全額投資せず、安全資産として保有する部分も必要です)。もし若い時から積み立て運用などの経験を積んでいれば、そのような年頃になった時、きっと自分で考えて判断できるようになるでしょう。
1万円ずつでも長期で積み立て投資を続ければ、立派な老後資金になります。ムリに大きなリターンを狙わなくても、まずは基本的な資産(日本と先進国の株式や債券)を中心に分散投資から始めれば充分です。投資信託を活用すれば、1本で投資対象を分散した投資信託や、個別の資産に投資する投資信託を組み合わせて自分で把握しやすい資産配分を作れます。
若い方なら投資できる将来の時間が長いので、値動きの激しい反面成長の期待も大きい新興国の株式も、外国株の中に少し入れてもよいでしょう。一方、大きく資産が減る局面を避けたい、あるいは戻るまで不安が大きいという年齢の場合は、運用の中核に据える資産では、新興国の資産や通貨は全体の10%程度に抑えておいた方が無難でしょう。
投資につきもののリスクを抑え、不安にならない運用を続けるには、投資や解約のタイミングを分ける「時間分散」が強い味方になります。「定期的な積み立て投資や取り崩し」は、タイミングを気にしない、気分で判断しない、とても有効な方法です。
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島田知保(しまだちほ) |
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イボットソン・アソシエイツ・ジャパン株式会社 月刊「投資信託事情」発行人・編集長。東京生まれ。文部省宇宙科学研究所、衆議院議員公設秘書などを経て1995年より現職。創刊50年の投資信託専門誌「投資信託事情」は、愚直に経済・金融の社会的役割を追求する硬派な雑誌。投信関連調査、ソフト開発・開示資料・広報活動へのアドバイス、各種セミナー講師なども務める。 また、社会的責任投資(SRI)、責任投資原則(PRI)という考え方の普及に努めている。TBSテレビ「ブロードキャスター」コメンテーター、日経ラジオ「マーケット・トレンド」 ほか出演。岩波ブックレット「金融商品Q A」(共著)、教職員共済組合「共済だより」連載、ほか新聞、雑誌への執筆など。
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