日本人は学校で運用について教わることなく大人になるため、社会に出てから自分で運用の勉強をしようと思うと、自ずと、ファンドマネージャーなど運用の専門家(=機関投資家)の理論を学ぶ機会が多くなります。実際、私が通っているファイナンス研究科でも、企業や機関投資家が運用することを前提とした内容が中心ですが、個人が投資を行う際、機関投資家などが行うのとは異なる点があるので、注意が必要です。
個人特有の要素として一番考慮しなければならないのが、「人的資産」。これは、将来働いて稼ぐ所得の現在価値のことで、健康な個人であれば誰でも暗黙のうちに保有している、売買できない資産です。
一般に、「若い人ほどリスクが多くとれる」と言われるのは、若い人ほどこれから稼ぎ出す所得の合計が大きく、年齢とともに小さくなるからです。いわゆる「ライフサイクル・ファンド」とか「ターゲット・イヤー・ファンド」と呼ばれるものは、こうした人的資産の考え方をとりいれて設計されたもの。定年退職時期である60歳や65歳といったターゲットの時期から逆算する形で、少しずつ保守的なアロケーションにシフトさせる仕組みになっています。
しかし実際の退職時期や働き方は人それぞれなので、こうしたファンドがすべてを解消してくれるわけではありません。たとえば、大企業の会社員が独立・起業を考えているケースで、運用方針に影響が出るかどうかを考えてみましょう。
人的資産は原則的に、安全資産と捉えられていますが、独立・企業すると、大企業の会社員である場合よりも将来の所得に対するリスクが高まることになるので、金融資産でとれるリスクが相対的に小さくなります。私自身も、かつて先輩FPから「シングルの自営業は特にリスクが大きいライフスタイルだから、リスク商品のウエイトを大きくし過ぎてはダメだよ(笑)」と忠告されたことがあるのです。
このように、実際には、同じ年齢や資産の額でも、働き方や今後の出費予定、いざというときの他者からのアシストの有無などによって、人的資産のリスクの大きさは違ってきます。FPが運用のご相談を受ける際、相場環境だけでなく、その人の投資目的や属性について詳しく伺わなければ、ポートフォリオを組むことができないのは、こうしたことが背景にあるのです(さらには、マネープランを立てる際、キャリアプランと合わせて考えることが必要な理由も、ここにあります)。
皆さんも、ぜひご自身の「人的資産」を考慮したうえで、総合的な
アセットアロケーションをしてください。