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嘘
2008年9月8日
人は嘘をつくと多弁になる。自分の嘘を隠そうとするあまり、あれやこれやと話の道筋にもっともらしい肉付けをしていくからだ。肉付けも度が過ぎていくとどこかで余計な事をしゃべってしまい嘘がばれてしまう。こういう拙者も半世紀近くこの世にお邪魔していると少なからず嘘をついている。それこそ「生まれてこのかた嘘をついたことがない」などと言うほうが嘘になる。
しかし、拙者も20数年付き合っているが、未だに嘘をついたことのない者がいる。それは相場だ。株式相場は「経済を映す鑑だ」と言われる。同時に、「3ヶ月から半年先の経済を表わす」とも言われている。
1990年、日経平均株価は38,915円という最高値から下落し始めた。およそ3ヶ月で1万円近い暴落となった。この段階でも多くのマーケット関係者は、日本経済の先行きに不安を持っていなかった。「日経平均株価はいずれ4万円から5万円を目指していく動きになるであろう」と信じていた。テレビでも多くの解説者が相場の回復の理由をまくし立てる多弁者となっていた。その後も株式相場の暴落は収まらない。
日経平均株価は92年8月に14,000円台まで下落する。この段階までくると、マーケット関係者以外でも不況になってきたと徐々に感じてくる。「複合不況」などという言葉も生まれた。その後、日経平均株価は2003年4月7,603円まで下落する。この間もGDPの規模だけは世界第2位を誇っているが、一人当りGDPは世界第2位から18位までその順位を下げている。この10余年が厳しい経済環境であったということはご承知の通りである。
2003年に日経平均株価は7,603円を底に上昇を始める。多くのマーケット関係者は「景気は未だに悪い」と語る。しかし、その後、株式市場が上昇するのに歩調を合わせ、各企業は最高益を更新していく。相場は嘘をつかない。
そして今回も嘘をつかなかった。08年1月に日経平均株価は12,500円台まで下落した。07年の高値が18,300円であるから、30%以上の下落である。相場は「景気が悪くなる」と語っていたのだ。案の定、景気は後退、いや、不景気へと足を踏み入れてきた。拙者は今後の経済、今後の社会を考える時に、相場が私たちに何を語りかけているのかを第一に考えることにしている。なぜならば、相場は嘘をつかないからである。
では、今の相場は何を私たちに語っているのだろうか。今回、気をつけなくてはならない点は二つある、と考えている。株式市場の水準と原油相場である。株式市場は08年に1月に12,500円台をつけた。その経済の厳しさがこのところのマンション不況、建設業界の不振、スタグフレーションの様相等を語っていたのであろう。拙者も1月に出演したテレビ番組で「今後の日本の景気は厳しくなる。それは相場が語っている」と解説している。
日経平均株価は3月に11,600円台、そしてこの8月には12,600円台と半年以上経っても水準は変わっていない。ということは、この厳しい状況がしばらく続くということ、つまり、楽観視できる状態ではない、ということだ。そして、原油相場を見て欲しい。原油(WTI)が1バレル100ドルを越え、120ドルを越え、140ドル台に乗せた。この原油価格の上昇が、食料品の上昇をはじめ経済に悪影響を及ぼしているとされていた。確かに、原油価格が上昇すると米国をはじめ日本も株式市場は値を下げた。原油価格の上昇が止まれば、相場は上昇に転じ経済は良い方向に向かう、と思っていた。
ところが、どうだ。原油価格が140ドル台から100ドル近くまで下落したのにも拘らず、株式相場の下落は止まらない。
この下落が止まらない理由を考えないといけない。おそらくは、もはや原油価格だけでは済まされないほど経済が弱ってしまったのではなかろうか。つまり、日本経済は、当初、軽い風邪だったものが、いまや重い肺炎になってしまった、という状況であろう。
相場は嘘をついたことがない。
経済評論家
川口 一晃
プロフィールとコラム一覧
ファンドマネージャーを経て、現在は経済評論家として活躍。
03年からはラジオ番組『ドットコムマネー塾』(ニッポン放送)のパーソナリティとしても人気を集める。著書は、『儲けるための株価チャート練習帳』(角川書店)ほか多数。
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本ページの掲載内容は、寄稿された執筆者の考え方や見方を紹介するものであり、当社が特定の金融商品や投資信託の個別銘柄を勧誘・推奨するものではありません。