インド株式市場は、7月半ばをボトムに一進一退ながら上値を切り上げる展開となっています。この要因として、原油相場が下落基調にあることが大きいとみられますが、加えて7月22日にシン政権に対する信任投票が可決され、「米印原子力協定」に端を発した政局の混迷が収束したことも挙げられるでしょう。
米印原子力協定とは、インドがIAEA(国際原子力機関)による民生用原子炉の査察に応じる代わりに、米国がインドの民生用原子力開発に協力することなどが定められたものです。同協定は、電力不足に悩むインドにとってメリットが大きいとされる一方で、野党に加え与党と閣外協力の関係にあった共産党など左派政党は反対の立場をとっていました。このため、つい最近まで協定の発効へ向けた手続きは進展していなかったのですが、今年6月になってシン首相が協定の発効手続きを進める意向を表明したことから左派が反発、7月8日には左派が閣外協力の解消を決定する事態となりました。
2004年の下院総選挙を経て成立したシン政権は国民会議派を中心とする連立政権ですが、下院で過半数の議席を有しておらず、共産党など左派政党の閣外協力を得て政権を運営していました。それだけに、左派の閣外協力解消は政権の崩壊=解散総選挙につながる可能性がありました。しかし、結果的に、与党連合が一部野党の切り崩しに成功し、7月の信任投票を乗り切ったことから、市場では当面の不透明要因が後退したことが好感されました。さらに、米印原子力協定に加え、これまで左派の反対で中断していた金融部門の外資規制緩和などが進展するとの期待も高まっています。
もっとも、インドでは下院の任期が満了する来年5月までに総選挙が実施されることになっています。有権者の過半を占める農民など貧困層の支持なくして選挙に勝つことは難しいため、選挙が近づくにつれ、株式市場が嫌気するバラマキ的な政策が打ち出される可能性には留意する必要があるでしょう。実際に今年度予算でも、農民に対する債務免除に代表される大衆迎合的な政策が株式市場には悪材料となりました。
インドは、1990年の経済危機の後、それまでの社会主義的かつ閉鎖的な経済体制を改め、外資規制緩和、貿易自由化、国営企業民営化等の改革を推進してきました。1980年代、90年代には5%台にとどまった平均実質経済成長率が、2000年以降8%台に高まったのもその成果とされます。この間、国民会議派(現与党連合UPAの中心政党)、インド人民党(=BJP、現野党第1党)の2大政党による政権交代を経ながら、経済改革の基本路線は継承されています。また、1947年の独立以来、軍事クーデターによる政権交代を経験していないなど、政情は総じて安定しています。政治が短期的に市場の波乱要因となる場面は今後も想定されるでしょうが、中長期的に経済成長を阻害するような政治情勢は想定しにくいといえるでしょう。